港南区 荒巻 彰
前触れはあった。もう30年も前の話だが。
カミさん『今日、近所の桜並木でキツツキを見たの。』
ワタシ 『へー。』
カミさん『それがね、スズメぐらいにちっちゃいの。』
ワタシ 『ふぅ~ん。』
カミさん『今度の日曜、戸塚駅と反対の方へ行ってみようよ。スゴい田舎なのよ!』
ワタシ 『・・・うん。』
カミさんは文鳥や十姉妹を飼っていたからか、多少鳥に関心があったようだが、ワタシは野鳥はおろか自然にまったく関心が無かった。
戸塚駅と反対の方の“スゴい田舎”とは、舞岡のことである。
関心は無かったが、まぁ、デコボコ道を自転車で走るのも面白いかな、ぐらいの気持ちで、次の日曜、カミさんと舞岡へでかけた。
そのシーンは今でもよく覚えている。
カミさん『あ、いた!キツツキ!!』
ワタシ 『は? どこ?』
カミさん『目の前の張り出した枝!』
舞岡公園内の、木の枝でトンネルのようになっていた場所で、木の枝の下側にくっついて、盛んに突いている鳥がいた。
背中がシマシマ模様で、スズメぐらいの大きさ。
ワタシ 『いたいた! あれ、キツツキ?』
カミさん『木、突っついているじゃん。』
ワタシ 『そうか、確かに。』
カミさん『木屑が飛び散ってるね!』
ワタシ 『すげぇな! でも、なんで枝の下側にくっついていて、落ちないんだ?』
カミさん『落ちてたら仕事にならんでしょ。』
ワタシ 『そりゃそうだ。あれは♂かな?』
カミさん『なんで?』
ワタシ 『頑固そうな眉毛だから。』
あの日曜日の、あの1羽のコゲラのおかげで、ワタシの生活が180度変わった。
“夜の蝶”(笑)を追っていた眼は朝の鳥を探し、爆音で鳴るエレキ・ギターを聴いていた耳は鳥のコーラスを聴くようになった。
あれから30年、今でもあのコゲラには感謝してもしきれない。私の心の宝物である。