2017年10月1日日曜日

北海道の山で鷲に遭遇

 
川崎市多摩区 増岡俊晴

昭和49年夏、私は登山同好会の新入生として、原始の残るカムイエクウチカウシ~幌尻岳の稜線上にいた。長大な稜線上に遮るものは何もなく、容赦なく太陽は照り付ける。ここでの問題は水の確保だ。
 新入生の私は、リーダーの指示で、鞍部から沢に下り水を補給することになった。道こそないが、標高は森林限界を越えている。登降は難しくない。時間にして下り30分、登り1時間というところ。
沢で水を確保し、鞍部までの途中まで来た時、私はそれに遭遇した。両翼を広げてタタミ一畳はあると思える鷲。その鷲が上昇気流をとらえるために斜面を急降下してきた。私のことは全く視野に無い様子。私の足は止まった。恐怖から本能的に身を屈める。鷲が真上を過ぎ去る。アッと言う間。手の届くほどの高さ。横幅はタタミ一畳。全身、暗茶色。羽音の記憶は全くない。
あれ以来、北海道の山に登る時間的な余裕は無いが、それでも暇を見つけては近隣の山に登る。猛禽類の飛翔を見ると、あの時のことを思い出す。あの鷲は何だったのだろう?両翼を広げてタタミ一畳。全身、暗茶色。上昇気流を捕えるための滑空。その時の私の恐怖感。 中年になって野鳥の会の会員になった。あまり熱心とは言えないが、それでもガイドブックを手に取り双眼鏡を覗くようになった。あの鷲はイヌワシなのか?北海道のイヌワシは稀少と読める。別な種類なのか?堂々巡りの思い出は決着しない。